平成15年2月24日

ベトナム電力セクター
最近の電力事情と主たる論点


1.最近のベトナムの電力事情

平成14年7月、JICA鉱調部の揚水発電所計画に関する予備調査団が現地に入り、先方と協議を行った際、協議並びに資料を通じてアップデートされたベトナムの電力事情は、大要、次の通り。最近の電力事情(2002年7月15日現在)

(1) 前回2001年3月プロ形調査団時点の情報では,全国の総設備容量は5,680MW(北2,673MW,中268MW,南2,739MW)と報告しているが,最近運転を開始した設備を入れると,現時点において,8,749MWが設備として稼働している。最近運転開始した電源は,中部のヤリ水力729MW(2002年4月),南のフーミー1天然ガス火力1,090MW(2002年),北のファライ第2石炭火力600MW(2002年),南のハムトワン水力300MW(2001年10月),ダミ水力175MW(2001年10月)などである。

(2) 設備出力8,749MWに対して,2002年6月時点の最大需要電力は,6,257MW(北2645MW,中739MW,南2,873MW)となって昨年同時期に比べて20%以上の伸びを示した。設備としての予備力は30%近くに達しているが,実際にはホアビンなどの多目的ダムの水力の有効出力が小さいので,供給力として,極めてマージナルな状態にあり,需要抑制なども含めて厳しい計画停電が実施されていろ可能性が高い。

(3) 現在準備中の電源は,最近着工した中央高原のセサン第3水力360MWで,機器等ロシアの支援を受けることで,2006年にも運転開始予定である。北の紅河支流のナハン(旧名ダイチ)水力342MWが準備工事に着工し,2006年にも第1号機を運転開始の予定,これは洪水調節を含む多目的ダムで,ダム自体はMARDによって推進されている。南部の天然ガスを主体としたフーミーは,フーミー第1火力1,090MWが円借款の支援を受けて完成しているが,続いて,フーミー第2―1火力565MWは,EVNの手によって完成に近く,フーミー第2−2火力720MWは,EDFや東京電力などのIPPとして2004年に運転開始の見込み,フーミー第3、720MWもBPと九州電力などによるIPPとして,同じく2004年にも運転開始の見込み,フーミー第4火力450MWは,EVNによって,2003年から4年にかけて,それぞれ運転開始の見込みである。

(4) そのほか,計画中または準備が進んでいるものの中で主たるものは,石炭公社のIPPによる北のナディン石炭火力100MWが2004年運転開始予定,中部のバンマイ水力300MWは,PECC1の手によってFSが進行中,2008年に運転開始予定,北のカウワ石炭火力300MWはFS実施中で,2005年運転開始の予定,ウオンビ石炭火力増設は現在詳細設計中,南のオモン重油火力600MW(300MWは円借款想定)については,将来の天然ガスへの変換を視野に入れながら,2005年から6年の運転開始を予定している。


(5) 北のソンラ水力は,出力規模を3,600MWから2,400MWに縮小して(水没約6万人か),2012年から16年にかけて運転開始することを想定している。このソンラの計画変更で,上流のライチュに800MW,下流にウエイクワ水力460MWが,新たに浮かび上がってきている。

(6) なお,フーミーなどに続く長期的な視野で,ニョンチャック天然ガス火力1,200MW,メコンデルタ先端までガスパイプラインを敷設して,カマウに720MWのCC/GTの運転開始を2005年に期待している。南部沿岸の原子力は1,000MWで2017年,揚水発電所の最初の投入は,約1,000MWを2010年に予定している。場合によっては,インドネシアなどの輸入石炭も考えているようである。50万ボルト南北連携送電線は,現在通常400MW,緊急時800MWの南北融通が可能であるが,着々と増設工事や計画が進んでおり,2010年には通常1000MWの融通が可能となるよう,準備を進めている。

2.最近の主たる論点

(1)2005年の需給バランス

アジア各国とも、1997年の経済危機以来投資が停滞した影響で、ASEAN主要国で、経済回復の兆しが認められると同時に、2004年から5年にかけて、特に、インドネシア、タイを中心に、電源不足が懸念され始めている。その中でもベトナムは、この1年間で3,000MW近い新たな供給力を投入して来ているが、昨年の伸び率が20%を超えるような高い電力需要の伸びで、2005年の需給バランスが問題となっている。これは、最近積極的に導入した投資環境整備の法律の影響とも言われ、2005年の総電力量需要は、年率16%伸びの、530億〜550KWhに達するものと予想されている。現在至近年に運転開始が見込まれているフーミー2−1火力565MW、フーミー2−2火力720MW(2004年見込み)、フーミー3火力720MW(2004年見込み)フーミー4火力450MW(2004年見込み)の天然ガス火力プロジェクトなどの成否に注目したい。

(2)天然ガス依存度の増大とその探査の進捗

ベトナム電力セクターは、南部の天然ガスへの依存度が増大することに懸念を持つ向きがある。フーミー火力コンプレックスは、工事中も含めて既に、5機約390万KWに達し、更に、バリヤやニョンチャック、更にはメコンデルタのオモン、カマウの計画を含めると、南部の電力は大きくオフショアの天然ガスに依存することとなる。現在バリアやフーミーで使用されているものは、バックホー(白虎)油田からの随伴ガスであったが、2002年11月に、ナムコンソン・ガス田からのパイプライン(海底362km、陸上37km、総工事費13億ドルのパイプラインが完成して、フーミーなどへガスが流れ始めた。更に、メコンデルタ地域では、P3鉱区の期待埋蔵量1.7Tcfを期待して、マレーシアとの協力で、2005年にも300kmのパイプラインを完成して、生産を始めたい、としている。これらの天然ガス生産は緒に就いたばかりで、今後の成否に注目する必要がある。

(3)電力セクター改革の行方

1995年にEVNが設立されて、その後国家的な施策の元に協力に電源開発や送電線開発が進められ、ASEAN主要国で見られるような電力セクターの分割、更には民営化の動きはないものと理解してきたが、最近EVNにやや動きがあるかに見受けられる、おそらく、2010年までに必要と考えられている190億ドルの開発資金(140億ドルは国内調達とされている)の目算について、内部で相当に激しい議論が行われている可能性がある。いずれにせよ、現在公式に発表されている電力改革の方針は、第1段階を2005年までとして、発電分野では発電所ごとに独立採算を取り入れる、と書かれているのみで、2005年までは特に改革は行われない、と解釈できる。第2段階は2010年までで、独立採算に移行したEVNの各発電所がIPPプロジェクトと完全競争させ、送電部門は分離する、との方針である。第3段階2010年以降に至り、初めてプール市場を創設した競争原理の導入に踏み込む、としている。これは、ASEAN主要国に比べるとかなり遅い速度の改革で、ここしばらく、注視したい。

(4) ソンラ等大規模水力開発の問題

1992年制裁解除以来、ベトナムは一貫してソンラ水力への日本政府の関与を期待してきたが、ここにいたり、国際社会の支援は期待できないものと割り切ったようである。ソンラは、北の電力需給に決定的な影響を与えると同時に、毎年大きな被害を与える洪水の問題を一挙に解決すべく計画されているが、水没住民の大きさから、ベトナム国会でも問題となっている。しかし、このプロジェクトを無視してベトナムの経済開発は困難なので、遂にダムの高さを下げて2段開発の案で2002年11月に計画投資省より国会に提案された。国会の承認はまだ得られていないものと理解しているが、独力で開発に踏み切るものと考えられる。既に完成したヤリ水力は、途中で何度も資金不足で頓挫しながら、遂に2002年に完成したが、この10年間でベトナムの経済力も向上してきて、内貨資金と重機器類や水車発電機などをサプライヤーズクレディットとして進めてゆくことになろう。これは、JICAが要請を受け付けていないダイティも同様の考え方で着工した。今後は、日本のメーカーなどの応札に伴う国際金融支援が問題になってくる可能性が高い。

(5)ピーク供給力不足への対応

現在水力設備の構成比は約50%であるが、そこで大きな部分を占めるのは、北のホアビン約200万KW、南のチアン40万KWである。しかし、この両貯水池は多目的ダムで、その運用はMARD(水資源省)が責任を持って運用しており、特に雨期においてはほとんど電力としてのピーク供給力の機能を持っていない。このためベトナムは早晩揚水発電所が必要となるものと考え、JICAにその開発調査を要請して、現在東京電力が調査を開始した所である。調査は比較的短期間で終わり、先方は、続いて具体地点のFS調査、更には開発資金の要請を考えている模様である。揚水発電の投入時期は2010年と想定しているが、技術的にはいろいろな問題を含んでおり、特に現在の点灯ピークへの対応を考えるベトナム側と、昼間ピークの台頭を考慮する日本側の間で激論が行われている。揚水発電は、当初中国においても十三陵の技術協力を行ったように、ベトナムでも地道な技術協力が必要となろう。

(6)電気料金の問題

2001年のEVNの売上高12.5億US$を販売電力量25.8TWhで割ると、平均電力料金は4.84セントとなる。実際には5セント程度と言われており、低いながらも1997年のアジア経済危機を為替的には軽傷でくぐり抜けてきただけに、安定している。しかし問題は、料金構造であって、大口に高く、小口に安い、社会主義国独特の様相を呈しているので、民営化には道は遠く、今後の急激な経済成長を支える電源開発は、国主導で進まざるを得ず、他のASEAN主要国のような急激な改革を求めるのは適切ではない。

(7)近隣諸国との連携

ASEAN閣僚会議で提案されている国際連携では、大きな役割を担うこととなっているが、この構想はまだ十分に熟しているとは言えない。ラオスとの間では、2002年2月に、送電連携とベトナムの買電について協定が結ばれている。それによると、セコン河の電源開発を想定した南部ラオスとの50万ボルト連携、ナムテン河の電源開発を想定した中部ラオスとの50万ボルト連携、これらによって、2006年までに100万KW、2010年までに合計200万KWのベトナム側の買電を合意している。しかしこれも、ラオス側のタイとの交渉の背景などから、ベトナム側は必ずしも供給力として信頼を置いていない。カンボディアへの約8万KW送電については、JBIC、世界銀行が検討中と聞いている。

(8) 北部石炭資源の問題点

ベトナム北部の火力は、北部の褐炭資源に依存している。1992年当時、露天掘りの現場を調査してその環境問題に関心を持ったが、全体的には80%が坑道生産で、安全性の問題についてJICAの協力が行われている。生産の大規模化に伴って、環境問題も引き起こすことになり、今後どこまで石炭を燃料とした電源の開発が続けられるかには問題が多い。北部の水力の開発が困難な場合は、南北の電源のバランスが崩れるおそれがある。つい最近の報道によると、政府は国営石炭公社 Vinacoal に対して、より効率的な探査と生産を指示している。計画によると、2010年までは毎年23〜24百万トン、2020年までは30百万トンの生産を計画している。政府は石炭産業に対して向こう7年間で約10億ドル相当の投資を計画しているが、それは主として生産手段の近代化と安全および環境の確保に重点が置かれている。

(9) 南北連携超高圧送電網の整備

1992年の日本政府の電力分野最初のミッションは、先方が南北連携50万ボルト送電線を通じて、北より南へ送電するので、北の電源への支援を頼む、と言う要請に対して、日本側が激しく抵抗した経緯があった。国際世論の反対を押し切って1995年に完成した南北連携線は、今のところ順調に稼働して、最大40万KWを融通しあえる状況にあるという。しかし、1回線であることから、送電容量や事故率の面で問題を抱えており、中部のヤリ水力の完成を契機として、急速にその整備が進んでいる。現状では、通常400MW、緊急時800MWの南北融通が可能、着々と増設工事を進めていて、2010年断面で、通常1,000MWの南北融通が可能になると言う。

(10) 原子力発電の投入時期

ベトナム政府は明確に、2017年投入を目指して原子力の調査を進めていることを明らかにし、日本を始め周辺諸国の協力を求めている。日本の取り組みとして、今のところ民間ベースであり、原子力発電技術機構による原子力基本法などのガイドライン提示、原子力安全研究協会のセーフティアセスメント指導、日本原子力研究所の放射線防護トレーニング支援などがある(この項、電気新聞2002年10月24日記事より)。最近になり、経済産業省の予算で安全協力について、支援が行われている。

以上(海電調足立隼夫)