Philippines 2000 March
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今回のフィリッピンは,マニラが中心,特にアジア開発銀行の状況について報告する。


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アジア開発銀行
その役割とプロジェクト事業化への貢献

1. 域内対象国の分類と考え方

(1) 対象国分類の基準

「開発途上のメンバー国」と言う表現で,アジアの対象各国を,AグループからCグループまで,3段階に分けて支援の枠組みを考えている。分類の基準は,各国の一人当たりGNPと返済能力(debt repayment capacity)の二つの要素で,特に返済能力については,6項目を勘案している,曰く,開発遂行実績と将来展望(development performance and prospects),貯蓄と投資のレベル(level of savings and investment),貿易収益発生の能力(ability to generate export earnings),国際収支のレベル(level of international reserves),対外負債(outstanding external debt),債務返済累積(debt-servicing burden)である。これらの観点から,適宜,国別報告書が作成されて,それに基づいて国の分類が行われ,その分類に基づき融資の内容を区分している。

(2)現時点における対象国の分類

グループAは,一人当たりGNPが非常に低く返済能力に限界がある国で,アフガニスタン,バングラ,ブータン,カンボディア,中国,インド,ラオス,モンゴル,ミャンマー,ネパール,パキ,ベトナム,スリランカなど23カ国が該当し,また,グループBは,下位の中級の個人収入がある国で,インドネシア(収入が低いとの注あり),フィリッピン,タイなど6カ国,更に,グループCは,個人収入が上位の中級か上級で且つ債務返済能力が高い国で,マレーシア,シンガポールなど6カ国が入っている。ADBの扱う「アジア開発基金(ADF:Asian Development Fund)」の適用については,特にこの分類に従って考え方が分かれており,グループAの国はこのADFによる融資をすべて受ける権利があり,グループBは特別の環境下で限定された額の融資が受けられ,グループCは基本的には融資の対象外となっている。「通常資本原資(OCR:Ordinary Capital Resources)についてもこれに準ずる。


3.基金の区分けと適用の原則

(1)アジア開発銀行融資の分類

アジア開発銀行の扱う基金には,大別して2種類があり,「通常資本原資(OCR:Ordinary Capital Resources)」と「特別基金(special funds)」があり,前者が日本の財政投融資枠を基本とした海外投融資に匹敵し,後者が一般会計によるODA予算の性格を持っているものと考えて良かろう。特別基金の中には,「アジア開発基金(ADF)」,「日本政府特別基金(JSF:Japan Special Fund)」,「技術協力特別基金(Technical Assistance Special Fund)」,「ADB制度特別基金(ADB Institute Special Fund)」などがあり,それぞれ運用の違いがある。その違いのあらましは,AFDは対政府の借款と解釈され,これに対してOCRは民間セクターも含めて幅広い対象を考えている。更にJSFは,主として無償供与で技術協力が基本と考えられる。

(2)「アジア開発基金」ADFの運用

1974年に設立されたADFは,いわゆるソフトローン(concessional loan)に属するもので,対象国もグループA(特にインドネシアを含む)を主たる対象とし,それも直接相手政府をその対象とするが,政府組織内のエージェンシー,政府内で機能する独立採算機関,国際機関を含んでよいものとされている。融資対象は,プロジェクトの外貨部分または間接外貨部分に限るとしており,融資条件において,原則返済期間は,10年の猶予期間(grace period)を含めて40年,最初の猶予期間終了後の10年返済分は各年2%,その後の返済分は4%としている。一般の利子に当たる銀行のサービス料は1%であるが,対象国の経済事情によって,実情を考慮した配慮を行うように,なっている。

(3)「通常資本原資」OCRの運用

OCRによる融資の基本原則は,ADFとほぼ同じであるが,特に強調している点は,借り主はあくまで実施機関であることで,その条件としてその実施機関が,法的に借り主の責任を有していること,海外からの融資を受け入れる法的根拠があること,財務運用の能力を有していること,を条件としている。融資条件は,「プール運用による可変レート(pool-based variable lending rate system)」で調整されることとなっており,これには二つの方法があって,一つはADBが選定した域内の40ヵ地点の統計を基礎にしたものと,「市場原理に従う借款(MBL:market-based loan)」があり,後者は,固定金利か浮動金利かを選ぶことが出来る。浮動金利の場合には,過去6ヶ月の「欧州銀行間利子率(LIBOR:London Interbank Offered Rate)」に従う。償還期間は,原則として,プロジェクトの耐用年数を考え,猶予期間は工事の期間を考える。また,この利子率の他に,年間0.75%のコミッションを必要とする。

(4)「日本特別基金」JSFの運用

これは基本的に,ADBの技術協力に対応するもので,すべて無償資金協力である。日本政府がADBにその運用を預けた形を取っているので,運用の合意や監査を,日本政府との間で協議する必要がある。なおこの基金は,技術協力(TA)の他,株式所有権投資(equity investment operations),プロジェクト管理(project administration)にも適用する場合があるようである。


3.ADB資金枠概観

(1) セクター別国別の実績

1999年1月1日から9月30日までの統計が発表されている。それによると,この期間のローンに関するコミットメント総額は,約32億ドルで,セクター別では,社会インフラが27.2%,約8.7億ドル,運輸通信が21.2%,約6.8億ドル,多セクター18.3%,約5.9億ドル,エネルギー12.5%,4億ドル,農業11%,3.5億ドル,他となっている。社会インフラが相当なウエートを占めている。また国別では,中国が36.1%,約11.6億ドル,インドネシアが31.9%,10.2億ドル,パキが12.6%,約4億ドル,タイが11.2%,約3.6億ドル,他となっているが,規模としては,JBIC年間400億ドルの10%弱の規模である。

(2) 基金別の累積原資

1999年9月30日現在における累積実績を見ると,大きく分けて,「通常資本原資OCR」の総融資承認額は約484億ドルで,これに対する特別基金のコミット総額は,「アジア開発基金ADF」が約213億ドル,技術協力特別基金(Technical Assistance Special Fund)が約8億ドル,日本特別基金(JSF)が約8.5億ドル,ADB制度特別基金(ADB Institute Special Fund)が約0.3億ドルで,特別基金の総額は約230億ドル,OCRとあわせてのコミット総額累積は714億ドルとなっている。

(3) メンバー国の持ち分実績

ADB基金総額の持ち分は,域内から約77%,域外から約23%であるが,域内における最大のシェアーを有する日本は16%,中国が6.6%,インドが6.5%,オーストラリアが5.9%,インドネシアが5.6%,韓国が5.2%,マレーシアが2.8%,などとなっており,域外からは,カナダが5.4%,ドイツが4.4%,フランスが2.4%等となっている。


4,民間セクター支援

(1) ADB民間支援の趣旨

ADBの設立趣旨の中で,開発途上国支援の中で,公益並びに民間の投資促進を重要な柱としており,特に民間セクター支援は,経済開発のために資源の活用と投資のための資金の効率的な運用を大きな目標としている。その柱は二つで,政府の民間企業への開発意欲刺激と,市場経済への円滑な意向である。このために,政府市場経済移行への環境作り,政府の財務体質の強化,国営企業の民営化への移行,BOT採用による資源の有効活用,優秀な民間企業の抽出,経済財務から見て好ましい民間プロジェクトの支援,などを行うとしている。したがって,民間支援に柔軟な姿勢を打ち出している。

(2) 民間との共同出資

ADBは特に,このような民間支援の原則から,ADBとの共同出資プロジェクトを強く打ち出しており,更に,民間セクターへの資金援助の中で,二国間,多国間の融資プロジェクト,民間銀行からの融資プロジェクトへの融資参加も視野に入れているものである。これは民間銀行によるシンディケート融資の枠組みにはいることも肯定している。


5.ラオスの電力セクター支援

(1) ナムルック水力への融資

ナムルックへの融資は,1995年10月頃にプロジェクト確認調査のため確認調査団を現地に入れ,査定ミッションを96年4月,その後10数回にわたって現地調査ミッションを派遣して,この発電プロジェクトに協力してきた。ADBの分担した借款総額は52百万ドル(すべてADF)で,このほかの融資支援は38.5百万ドル(円借款)と銀行借り入れが22.1百万ドル,合計で112.6百万ドルのプロジェクトで,最近完成を見た。これはADBに取ってソフトローンである。

(2) テンヒンブンへの融資

1991年4月に最初のコンサルタント調査団を送り込み,出資者合同会議を8回にわたり開催して,1994年7月にアプレーサル調査団を送り込んだ。プロジェクトは1998年3月に完成している。このプロジェクトに融資されたADBローンはADF(ソフトローン)で,融資額は約60百万ドル相当(35.055百万SDR)である。多の資金源は,民間出資44百万ドル,エキスポートクレディット約59百万ドル,商業銀行借り入れ約63百万ドル,公的資金(NORAD/NDF/UNDP)約15百万ドル,合計約240百万ドルとなっている。


6.最近のADBの政策

(1) 最近のADB新戦略

ADBは,国際的な社会開発重視の傾向を受けて,貧困重視を明確に打ち出し,今後融資の40%相当を貧困削減のために振り向けることになろうと言っている。90年代に入り,国際会議などでも貧困に関する様々な目標が設定され,努力が続けられている。OECDのDACも,「2015年までに絶対的貧困層を半減」を目標として打ち出しており,ADBも,貧困削減戦略の中に組み込まれて,2001年末までに,年間60億ドルに及ぶADBの公的部門融資の少なくとも40%を貧困削減を目的とするプロジェクトに拠出すると言うものである。アジアの総人口30億人のうち9億人が一日1ドル以下の貧困,この内訳は中国が4.5億,インドが2.5億人と言われている。

(2)ADBの過去の貢献への評価

1966年創設されて以来,ADBが重視してきたのは,域内国の経済成長の促進であった。ADB創設に関わった現千野総裁は,これまでに経済成長重視型アプローチを評価しつつ,「今までにやり方は貧困削減に必要な条件ではあるが,十分条件ではない。例えば,教育が十分ではない国では成長があってもみんなが十分に恩恵に浴していない」と,今回の戦略変更について説明している。


以上



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