1.「包括電気事業改革法案」の行方
1993年までの電力危機をIPPで乗り切ったフィリッピンにとって,アジアで日本に次いで高いと言われた電気料金の引き下げであった。このためには,「卸売り市場の創設による発電部門への競争力の導入」を柱の一つにするために,NAPCORの分割民営化を基本とした「包括電気事業改革法案」が昨年から国会で討議され,現在上院のエネルギー委員会で審議中である。下院と上院でNPCの分割方法について異なった意見がでて,その早急な成立が危ぶまれているが,最近の経済危機と併せて需要家からの突き上げが激しく,市民のデモが計画される騒然たる情勢の中で,審議が続けられている。
2.NAPCOR(電源)とMERALCO(配電)の対立
マニラの電力販売を担当するMERALCOは,NAPCORがこの段階で配電部門に進出することに強い危機感を持っている。既にNAPCORは,特定大規模需要家への直接販売を認可されて準備中であるが,これが実施されれば,MERALCOとしては販売料金の値上げに踏み切らざるを得ないとしており,更に,最近のNAPCORの経営悪化を理由として,このような経営方式を配電部門に持ち込むことは,全体的な電気料金の値上げに繋がる,と主張しており,「改革法案」の成立の行方にも微妙な影響を与えている。
3.NAPCORの経営悪化
今回の経済危機とペソの対ドルレート下げの影響で,1996年に5経常利益55億ペソであったものが,1997年には30億ペソまで激減している。最近世界銀行のローンが予定されていた変電所建設に対する約5千万ドルのローンも棚上げされたが,このときの世銀担当者は,NPCの経営悪化で返済の見込みがない上,唯一将来の希望と見られた「改革法案」が棚上げ同然の状態にあることを,その理由に挙げている。石油等燃料の高騰で更なる卸売料金の値上げを迫られているNAPCORの建て直しが,急務である。それは,分割民営化の道しか残されていないと考える人は多い。
4.NAPCORの分割民営化の方法論
NAPCORの分割民営化は既定の路線,と言うことが出来るが,その方法については各議員
の利害関係も絡んで決着の目途が見えていない。NPC自身が纏めた分割に関する原案では,送電会社1社と,7つの発電会社に分割して,一つの持株会社がこれらの株を保有すると言うものであるが,7つの発電会社への分割の方法については,地域別とする考え方と電源種別とする案があり,昨年10月に審議を完了した下院は後者を推しており,地域別とするNPC原案並びに上院の一部の議員と対立している。大統領選挙が予定されている1998年5月までに決着できない場合は,抜本的な改革が不可能となる可能性もある。
5.NPC分割とIPP計画の関連
海電調資料によると,NPCの原案通り分割が進んだ場合には,既存のIPPからの電力購入は各発電会社が責任を持つこととなり,各発電会社の電力原価に応じてIPPが振り分けられる予定である。因みに,1996年末のIPPの発電原価を見ると,重油火力等が1.20〜1.50ペソ(KWh当たり),小規模IPPが1.85〜2.19ペソであるが,これに対してNPCの全国平均が1.84ペソ,マニラ地域の平均が2.09ペソとなっている。今後のIPPにとって,その電源の位置とそれを買う発電会社の発電原価が大きな契約上のポイントとなる可能性がある。
6.経済危機に関連したプロジェクトの調整
現在の需要想定は1995年に策定されたものであるが,今後の電源開発の速度をゆるめるかどうかについて,国内の議論が行われている。国家投資委員会(BOI)は,今後の資金調達へのインセンティブを重視して「投資優先案件(IPP:Investment
Priority Projects)」を多めに設定しているが,これに対して国の経済の舵を握る国家経済開発庁(NEDA)は,その根拠が薄いと非難している。一方エネルギー省は,2002年断面に於いては電源がやや過多となるため,当面すべての電源開発を棚上げする,と決定している。しかし,「再生可能国産エネルギー」については開発を続けるべきとして例外扱いしている。この例外には水力発電プロジェクトも当然含まれるものである。
7.電気料金に対する国民の認識
種々の情報を総合すると,ペソの下げに影響された諸物価の高騰は国民生活を直撃しているが,その中でもアジアで2番目の高さにある電気料金に対しては,国民は極めて敏感と感じられる。それは「改革法案」の早期成立を呼びかけた市民のデモの計画や,MERALCOとNAPCORの対立に見られる料金論争に,それを感じ取ることが出来る。いまや「NAPCORが悪い」との評が,一般市民ばかりでなく世界銀行等の国際融資機関でも聞かれる現状は,今後の開発がその発電単価に大きな関心を呼ぶ可能性がある。