Kurobe
黒部川の電源開発

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20年ぶりに黒部川を訪ね,古き電源開発の歴史と,新しい環境に対応した新技術の展開,これらが渾然として織りなす人間と自然の調和に深く感動した。最初の3枚の図面は関西電力のパンフレットから無断借用したもので,後半の7枚のカラー写真は現地で私がデジカメで撮影したものである。(1997年6月)。2点について国際協力との関連からその教訓を記しておく。なお,今回の見学旅行には,関西電力のご協力があり,ここに改めてお礼を申し上げます。

(1) 長年月に亘る地道な計画と果敢な挑戦

最近の東南アジアのダム開発は,私の目から見れば,計画的に誠に果敢で,時代の流れとは言え,また経済成長の規模が昔とは桁違いに大きいとは言え,大流域に適切なダムサイトがあれば一気呵成に大貯水池を建設して行く,何処かで摩擦が生ずる可能性が甚だ高いものである。黒部川の開発を振り返ると,まず適切な規模の日調整式の中規模水力を,下流から的確に建設して行き,時機到来すれば渾身の力を振り絞って鍵となる大貯水池を上流に建設し,これで得られる新しい水を,今度はきめ細かに下流の増設計画に振り向ける,そうして最後に下流の平野への影響も考慮した逆調整池を持った発電所を建設して,水系の一貫開発を締めくくる。この黒部全系の総出力87万KWの開発に要した年月は50年近くではあるが,徐々にその便益は得られてきているので,現在のように,100万KWクラスの着工に環境問題から10年以上を要するものと比べても,それほど長いとは言えないのである。そうしてそこにはそれぞれの時代の俊秀が,計画の伝統を守りつつ開発の思想を引き継いでいったわけで,個別のIPP計画に無秩序に飛びついて行くアジアの各国の開発の考え方に,この辺りで反省を加 えては如何であろうか。

(2) ダム究極の環境問題である土砂流送

黒部は特に土砂の問題が大きい。黒部湖が,30年を経て10%の埋没というのは僥倖に恵まれたとしか言えないが,下流のダムは何れも調整機能を失っている。最後に10年前に完成した出平ダム(音沢発電所)は,最下流ということもあり,池の容量が計画の死命を制する。関電の挑戦した土砂吐け設備は,全く新しい技術であり,私の目から見ても成功したのかどうか判然としない。設備は素晴らしく考えられたものであり且つ高価である。問題は今後の運用にかかっていると言って良いだろう。このタイプの土砂吐けは,中国の三峡ダムでも考えられているもので,各地で起こっている下流の環境保全の問題からも,世界の技術者が今後挑戦して行くだろう。関西電力も,斯界の権威を集めてこの運用の問題を議論されているようである。ポイントは恐らく,如何にして出水時にこれを開いて運用できるかという問題のような気がする,しかも上流水位を高く保ったままでは上流付近への土砂吐けの影響が届きがたいので,どうしても水位を下げなければならない,その決断を容易にするためには高度の観測網と予測システムの構築が前提となるであろう。この関電の技術開発を発展途上国に適用すると しても,我々の相当な努力が必要だと思う。



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黒部川流域案内図

黒部川の電源開発


写真


1.  黒部ダム,高さ180mのドーム型アーチ,右岸下流の展望台より望む。


2.  展望台から見た黒四貯水池,台風で倒れた流木の処理に苦労している。


3.  右岸ダム直上流に設けられた発電用取水口,我が国最初の環境問題,冷害に対処している。


4.  黒部第3発電所に水を送る仙人ダム,55年が経過して,上流は完全に土砂で埋まっている。


5. 最近の出水に対する河川の段差保護工,下流に新設された出平ダムへの対策か。


6.  黒部第3発電所,縦の線と横の線が調和のとれた美しい建物と言われている。


7. 10年前に完成した最下流の出平ダム,二つの高い構造物が土砂吐けの補修用ゲート。



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